第弐拾参.五話『 開かれない世界 』

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「息しないで…」軽く唇を離し、アスカがささやき再び唇を合わせる。
アスカの唇の感触、融けているかの様に官能的な舌。甘い唾液。
理不尽な程の説得力に、シンジの感覚は女を意識する事を強制される。
触れる身体から伝わる温もり、柔らかさ、なめらかな感触。
シンジの両手が、アスカの腰に触れる。赤ん坊の様な肌。
アスカは口付けを交わしながら『勝った…』と感じる。
シンジの手が腰から脇腹へ撫でると、「んっ…」とアスカの吐息が洩れる。
シンジの息が荒くなってくる。アスカは頬に軽く口付けて、その左手をシンジの股間へ伸ばす。太く固い感触。その形を撫でる様にさする。
「固くなってる…」耳元で吐息混じりにアスカは囁く。そのまま耳を舐める。
同時に、シンジの右手がアスカの乳房を触れた瞬間に掴む。
小さく息を吐き、肉欲の対象になった事に、アスカは初めて身を震わせる。
シンジは思考が麻痺するのを感じていた。体臭なのか、リンスの匂いかはわからない。しかし、アスカの香りが芳しく、その身体に触れたくなる。
アスカの左手が、ベルトにかかる。器用に片手で、それを外すと、学生ズボンの止め具も片付ける。そのままシンジの首筋に唇を這わせながら、
シンジのワイシャツのボタンを下から外してゆく。
アスカは、シンジの顎先に視線を落とし、そのワイシャツを脱がす。
そこに至ると、次の行動にアスカは戸惑う。キスをし、はにかむ様に離れ、シンジの手を引き、ベッドの傍に来る。その身体を軽く押し座らせる。
その場に腰を沈め最後の一枚を脱がす。そそり起つ性器に満足し、反面、初めて見るその状態に、疲れた眼で見入る。
シンジはその眼に優しさを感じなかった。
アスカはその場に立ち上がると、シンジを見下ろす姿勢のまま俯く。
その全身を隠すものは何もない。アスカは手で隠すこともしなかった。
この数日、特にエヴァとのシンクロが不可能になってからというもの、彼女の雰囲気は全く変わってしまった。元気で勝ち気だった面影は消えていた。
アスカのこの行動が、昨日の加持の事に理由があるとするならば…。
異常な光景に、シンジは息を飲む。全裸で自分の前に立つアスカがいる。
それは昨日までは、空想の中のアスカの姿。陶器の様に白い肌。服の上からもその存在を主張していた、ふくよかな乳房。細い腰…そして脚。
目の前に見えるアスカの腹部。その下には恥部をわずかに隠す草むら。
アスカがシンジの両肩に手を触れ、寄り掛かるように身を屈めると、眼前に差し出される膨らみが顔に触れた。
「…やめてよ…」シンジがか細い声で、顔を背けた。
その言葉に、アスカの身体がピクリと反応する。一番聞きたくない言葉。
アスカの瞳が、シンジを睨む。虚脱にも似た感情の無い眼光。
『これは違う…』シンジは目を合わせようとしない。しかし違うと感じる。
いつも笑い、怒り、行動的で我儘。『違う』後悔にも似た悲しみ。
《あのアスカが自分に逃げてる》シンジは悲しい気持ちに醒めた。
アスカは、いつの間にか萎えたシンジに気付く。先程までの、自分に欲情を示していた性器は、すっかりと、その勢いを消していた。
《イヤだ!!》アスカの脳裏が、それが自分に対しての拒否だと認識する。
一本の糸で保たれていた、何かが崩れていった。
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