第弐拾参.五話『 開かれない世界 』

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アスカは奇妙な息を吐いた。苦笑の様な、意外を示す様な嘲笑かもしれない。
片膝をベッドに乗せ、アスカはシンジに近づこうとしたが、シンジの手がそれを拒む。腕を掴まれたアスカは目を剥いて、その腕にあらがうが、その瞬間、アスカの身体から力が抜け、俯いてその身体を小さく震わせた。
「こんなのちが…」シンジが言葉を出すその時、アスカが力任せにシンジを押し倒し、組み敷く。正気を感じさせない眼で、シンジを睨む。

それは怒り。それは絶望。それは憎悪。

シンジは顔を背けた。アスカの乱れた呼吸が耳に痛い。
「あんた見てるとイライラすんのよぉっー!!」アスカが叫ぶ。
それは、最大限の拒否と侮蔑。
シンジは微かに悲しみの色を浮かべた。
「…自分みたいで…?」その問いに感情は無い。
シンジは殴られる事を期待していた。そうすれば、また前に戻れると思っていた。もちろんそれは、稚拙な願望でしかなかった。
罵声に構えていたシンジは、違う様子に気付く。アスカはうなだれたまましばらく動かずにいた。
ポタっと、シンジの横顔に水滴が落ちた。
シンジは、それが何であるか理解するのに、数秒を要した。
ハッと、アスカに目を向けようとした時、アスカはやおら立ち上がり、背を向けベッドを降りる。一瞬、その場に立ち尽くすアスカに、シンジは何か言おうとしたが、出る言葉は無い。
アスカは部屋を出ていった。
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