第参拾弐話『 泪(U) 』

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アスカは視界の片隅に、シンジのほほ笑みを見て、シンジを見ようとはしなかった。正確には見ることができなかった。
アスカには、シンジを愛しく思う心がある。その心がアスカを頑なにさせる。
「私には資格が無いの…」
アスカは夢で見た、綾波の後ろ姿を思い出す。
『自分一人の殻に閉じこもって、人を許そうとしなかった…。わかろうとしなかった。今更…』

「一人で自分の事、考えすぎちゃダメだよ」アスカの表情にシンジが言う。
アスカはハッとなって、シンジを見る。シンジもアスカを見据えていた。
その表情は真剣そのものだった。アスカの思いを悟っていたかのように。
「自分の価値を自分で測って、何かを決め込んだりしちゃダメだ」
シンジが辛そうに言葉を吐いた。
「ボクも、…アスカも、そうやってエヴァに乗ってきた。そこに別の価値を生み出そうとしてきた。…でも、ホントはそんな事じゃなかったんだ」
アスカは後悔を感じていた。自分は、辛いことを言わせようとしている。
しかし、アスカには言葉が出ない。
「人が大事にしてくれるとか、優しくしてくれるとか、そんなの勝手に思い込んでただけなんだ。自分の中で、そう思ってただけなんだ!
…自分の価値を自分で、認められないから…」
シンジは少しうつむく。
「そんなの違うんだ…。そこで決め付けたって終わらないんだ。…自分がいなくなるまで、終わらないんだ…。」シンジの眼に泪が浮かんだ。
アスカは言い様の無い自責の念に、泪が浮かぶ。
「ボク達は望んで還って来たんだ」シンジは再びアスカを見つめる。
「…だから、そんな事言うなよ…」シンジは優しい顔をしていた。
アスカは色々な思いが交錯した。しかし、確かなことは今シンジが目の前にいる事が、全てだった。
「ごめんなさい…」アスカは泪を拭いもせず、シンジの左腕を握る。
「あたしっ、ごめんなさぃ…」
シンジの眼を懇願するように、見据えるアスカ。
消え入りそうな声で、アスカはシンジにすがった。
肩を震わせ、アスカはシンジの胸で泣いた。シンジの優しさが嬉しくて、辛い事を思い出させてしまった自分の愚かさが哀しくて、アスカは泣いた。
シンジはアスカの華奢な身体を抱き締め、万感の想いを感じていた。
守らなければならない。二人で、強くならなきゃいけない。そうシンジは感じていた。
『アスカが好きだ』シンジはアスカの香りに誓っていた。
シンジにとって、今はそれが全てで良かった。
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