第参拾弐話『 泪(U) 』

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その日の夜、二人は色々と話をした。アスカの母の事やアスカの生い立ち。
シンジの父と母。第3新東京市に来るまでのこと。
エヴァの中で起こっていたこと。渚カヲルの事。
葛城ミサトと交わした最後の言葉のこと。その後、起きた事について。
二人は、知っている様で、実は欠けていた互いの事を話し合った。
ここに来てから、あまり触れなかった事だった。それは長い時間だった。
「きっとミサトは生きてるわよ…」アスカの言葉は願望の様だった。
すでに、アスカにはLCLの中で一つの命になっていた記憶も薄れていた。
誰が誰とわかった訳では無いが、誰か知っていた。そんな世界だった気がしていた。しかし、ミサトの事は記憶に無い。
シンジは頷いて答えた。あの別れが最後だと思いたくなかった。
だが、あの時のミサトの笑顔が焼き付いて離れない。
やすらかな、何かを悟った様な笑顔だった。その理由は知りたくない。
「しっかし、弐号機が初号機にブチのめされてたとはねぇ〜」
「はははっ。ごめん。…あの時アスカに謝ったよ」遠慮した笑いのシンジ。
「別にあたしが操縦してた訳じゃ無いしねぇ」少しつまらなそうなアスカ。
そして、アスカはわかった気がした。シンジは親友を殺したのだ。
トウジの乗ったエントリープラグを握り潰し、また、フィフスチルドレンを深い葛藤の果てに、その手で抹殺した。
わかる気がした。なぜ、シンジがアスカの首に手をかけたのか…。
「明日さぁ。…弐号機のお墓作るから手伝ってよ」
ソファーの上で、天井を仰いでアスカが言った。
「えっ?」一瞬、不思議そうな声を出すシンジ。
「フィフスとファーストの分もね」そのままソファーに寝転ぶアスカ。
「…うん」少し間を置いてシンジは答えた。
アスカの優しさに、シンジは目を細めた。
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