第参拾話
『 目覚める世界 』

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翌朝、シンジが目を覚ますと、アスカがフライパンをおたまで叩いた。
「はい!起きた起きた!」
カーン!っという音で目が覚めた事に気付く。
「朝ごはんできたわよ!」エプロン姿のアスカが急かすように言う。時計を見れば8時だった。
仕方なしに起き上がると、「大至急朝食よ!」と、アスカが急かす。
食堂に行くと、テーブルにはスパゲティミートソースが湯気を立てている。
「…朝から?」げんなりしたシンジ。
「傷つけられプライドは!って、前も言ったでしょ?」
「言ってたね…」嫌そうなシンジは、仕方無く食べ始める。
「今回はどぉよぉ?完璧でしょお?」勝ち誇るようなアスカ。
「ん。茹で方はみごとだけど…、朝からスパゲティはつらいよ…」
「イタリア人は、毎日朝昼晩パスタよ!」
「違うと思うよ…」シンジの抗議は聞き流された。

シンジはこの時気付かなかったが、アスカは何故か妙にドキドキしていた。
昨夜の【味見】に、いままで経験した事の無い感覚があったのである。
これまででも、確かに気持ち良かったのだが、もっと違う処の寸前までいったような気がしていた。
『あれがイクって感じ?もっと違うのかな?』
アスカもスパゲティを食べながら、眠そうに辛そうに食事するシンジにチラっと視線を向ける。
「アスカさぁ、」
「えっ!?ええっ!?何??」
自分を見ないで喋りだしたシンジに動揺するアスカ。「上手になったよね」
「そっ、そぉ?」
途切れる会話。
『どっちの事よ!?何を言いたいのよ!?』思っていても聞けないアスカ。
食後。
『胃ぃもたれた…。恐るべし…デュラム=セモリナ粉…』
違う理由もあったかもしれないアスカ。
午前10時少し前。アスカが運転する車は、時折ドリフトをかましながらシンジを乗せ街へ向かっていた。
「だっ!だからアスカ危ないってばぁっ!」シンジが喚くが、アスカは全く気にしないハンドルさばきで「きぃーぃん」とか効果音を入れている。
「心臓に悪い…」到着するなり言ったシンジは吐きそうになった。

いつものように、スーパーで米や調味料などの食料や、衣類・生活必需品を調達する。すでに、野菜や肉、魚などの生物は腐り、悪臭が鼻につく。アスカが肉の事を「もったいない…」と言ったが、陳列用の冷蔵装置だけでは、こうなるのも仕方がない。肉とは最近縁が無い。
「冷凍庫にしときゃいーのにさぁ」と、アスカが文句を言った時、シンジは気が付いた。バックヤードに入り込むと、肉切りの機械や、巨大な銀色をした冷凍庫。扉を開けるとアスカが「うおぉ〜おぉにぃくぅ〜」と歓喜の声を上げる。大きい塊の牛肉。今日の収穫は盛大だ。いつもの様にシンジがレジに借用書を張り付け、二人ははしゃぎながら店の外にでる。そして、レジ袋をブラ下げたアスカは気付いた。
遠い空から響く爆音に。
アスカは空を探しながら「シンジ!飛行機!飛行機飛んでる!」と叫んだ。
驚いてシンジも空を仰ぐ。しかし、雲が多いせいか見つからない。
「あそこっ!」アスカが西の空を指差す。
雲の切れ目に、一筋の飛行機雲が湧き出るように北へ動いている。
「UN海軍のフランカー?」その雲の先のシルエットを見たアスカ。
それは、UN海軍の主力戦闘機であり、無人機では無い。
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