第参拾話
『 目覚める世界 』
23
サードインパクトから15日目…2週間が過ぎた。
シンジは毎日、テレビやラジオの全バンドをチェックしていたが、聞こえるのはノイズだけだった。
長野県の第2東京市まで行けば、人がいるかもしれないが、テレビのノイズが現在の首都機能の現実を物語っている気がしていた。
第3新東京市も消滅している。シンジは行き場が無いという現実と、まだ、ここを離れたくない思いから行動を起こせずにいた。…それはアスカの事。そして…、
『ミサトさん…』
シンジは、彼女との最後の話を思い出す。ミサトは生きる事に前を向いていた。その彼女が戻らないのは何故か?
しかし、戻るとすれば、あの海岸の様に思えて、シンジは待ちたかった。
「シンジぃー。ごはんできたわよ」
アスカの声がする。
エプロン姿のアスカが、寝室まで呼びにきた。
「あぁー、うん」
シンジはなんだか新婚生活を想像してしまう。
この家に来てから、アスカは料理を手伝うようになり、簡単なものなら一人で作るようになってきた。
アスカ曰く、「ドイツの娘はジャガイモだけで、百や2百の料理を作れないと、女として失格」と言われるらしい。
「これからは覚えなきゃねぇ」と言っていた。それは、エヴァパイロットとの訣別の意志だったのだろう。
ゲヒルン時代から、高度な教育を受けていたアスカは、やはり特別な存在で、食事は用意される物でしかなく、学ぶ物などでは無かったのだ。
夕食は、スパゲティミートソース。
「もー少し茹でたら完璧だったかな…」
一口食べて、シンジが言う。
「なに言ってんのよ!これがアルデンテってヤツよ」
得意げに言い放ち、一口食べて、ずきゅっと固まるアスカ。
「…味見はしなきゃねぇ」
食べながら言うシンジ。
「はぃ…」うなだれるアスカ。
「おっかしぃわねぇ〜。袋のレシピ通りに時間を正確に計って茹でたのに」
「まぁ気にすんなよ。塩加減とかは問題無いよ?あとは味見しながら」
フォークで、料理を突くアスカに、シンジは笑いかけた。
「確かにアンタは味見得意よねー。料理とかあたしとか?」
少しふてくされたアスカの嫌味に、シンジが吹き出す。
その夜。
「味見してやる」「ぃやぁーん」
夜はふける。