第弐拾参.弐話『 禁じられた遊び 』
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翌朝、シンジは朝早くに家を出た。正確には逃げ出した。
シンジはアスカに合わせる顔が無い。嫌な空気に触れたく無かった。
何処に行くともなく徘徊する。ただ、誰とも会いたくなかった。
ネルフ本部で一夜を過ごす。その日は誰とも言葉を交わさなかった。
次の日の夜遅く、シンジは家に戻る。外から見ると明かりは消えている。
コソコソするつもりは無い。しかし、堂々とも出来ない。家に入ると中は暗い。今日もミサトは帰ってきていない。静かに自室へ向かう。
廊下の明かりを付け、シンジが自分の部屋の入り口の手前まで来た時、向かいのアスカの部屋の襖が静かに開いた。その場で立ち止まるシンジ。
部屋から出てきたアスカがシンジの前に立つ。その表情は俯いて見えない。
アスカはゆっくりとシンジに歩み寄る。前髪の隙間から見えたその瞳には泣き腫らした跡以外、表情は見えない。アスカの右手がシンジの手首を掴む。
「アス…カ?」
少し身じろぎするシンジを背後の壁へ、そのまま追いやりアスカは顔を上げる。光の無い瞳は、憎悪の様な後悔の様な色を浮かべる様に見えた。
アスカの顔が近付き、その唇がシンジの唇に触れた。シンジは動けない。
アスカは唇を求め続ける。繰り返す様に、深くする様に。
舌先と唇がシンジの唇を押し拡げ、アスカの舌先がシンジの舌に触れる。
吐息と共にアスカが唇を離すと、唾液が細く糸を引いて消えた。
アスカの身体がぐったりとシンジに寄り掛かる。頬が触れる距離。
「シンジ…?セックスしようか?」
壁を見たままアスカは呟いた。