最終話
『 無と再生 』

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翌日、3人は朝の海岸へ来ていた。昨夜、一通り事情を伝え合った3人は、ミサトのペンダントを取りに来たのだ。
シンジとミサトは、車を離れその場所へ向かい、アスカは車のそばで海を眺めていた。完全に腐り落ちたのか、魚の餌になったのか、量産機は跡形も無くなっている。潮風が少し強いせいか、今日は寒く感じるアスカ。
シンジ達に目をやると、ミサトのペンダントを打ち付けた場所で、二人は何か話し込んでるようだ。少し気になりながらも海へ視線を戻そうとした時、ぽちゃんと水音がした。海を凝視するアスカの瞳に彼女が見えた。
綾波レイ。
水面の上に立つ、彼女の姿が。
その視覚の情報に戦慄するアスカ。しかし、まばたきをした瞬間に消えた。
「ファー…スト?」気のせいか何かアスカにはわからない。
しかし、次の瞬間海面から何かが浮かび上がった。人の頭?
アスカは一ヶ所を見つめたまま動けなかった。顔が見えた。眼鏡の男。「ああぁぁぁー!!」アスカは声を上げる。
日向マコトだった。
「シンジィー!ミサトぉー!!」波打ちぎわに駆け寄り叫ぶアスカ。

日向はフラフラと、なんとかはい上がってきた。シンジとミサトが海の中まで駆け寄り肩を貸す。3人が声をかけるが、視線だけでしか反応しない。
「日向君!日向君!?」ミサトの声に、その姿を認めて微かに笑う日向。
砂浜まで辿り着き倒れこんだ日向に、ミサトは膝をつく。
「日向君!」涙をこぼすミサト。「日向さん!」シンジも名を呼ぶ。
「葛城さん…。また逢えましたね」呻くように日向が笑おうとして答えた。
アスカは何だか感動して声が出なかった。口を手で押さえ、涙が出そうになる。ミサトは日向にすがって泣きだしてしまった。
そしてアスカは気付いた。
「飛行機の音?」アスカの声に、シンジが気付く。二人は空を見渡す。
すると、西の空から飛行機が近づいてくる。
「あそこっ!」アスカが指を指すと、ごく近くを通過したフランカー。
爆音を轟かせ、海上を低く飛んだかと思うと、かなり離れた空で反転し、再び4人のいる海岸を廻るように飛んだ。その背面は海岸に向けられている。
「おぉ〜ぃ!」アスカが飛び跳ねながら両手を振る。
シンジも声を張り上げて手を振った。
東の空から近づくフランカーのコクピットに、パイロットの姿が見える。
フランカーは、砂浜の四人の目の前を低高度で通過し、南へ進路をとった。
翼を三回揺らし、一度ロールしながら高度を上げると再び西へと飛んだ。
陽光にその淡い色の機体が、キラリと輝きを放っていった。
「ぃやったぁぁ――!!」アスカが気勢を上げる。
「やったよアスカ!やっぱり他にも人がいたんだ!」満面のシンジ。
アスカはシンジの胸に飛び込んだ。堅く抱き締めあう二人。
「日向君」日向の手を取り見つめるミサト。微笑む日向。
透き通るような蒼く高い空に、シンジとアスカの笑い声が響いた。
二人は確かな未来をその腕に抱いていた。

…I need you
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