最終話
『 無と再生 』
34
あの惨劇から23日が過ぎた。シンジとアスカの環境には変化が無かった。
依然、人間に出会うことは無く、数日前、シンジが軍港の海軍施設にある軍用無線の存在に気付いたが、使い方も良くわからない部分もあるせいか、なんら成果は無かった。有線電話は遠隔地にはつながらず、いたる所で拾える携帯電話は、通信網が破綻しているままの様だった。
アスカは半分、どうでも良くなってきていた。『誰かが戻るならいづれ会えるだろう』程度にしか考えないようになってきていた。
『シンジがそばにいてくれるなら、生きてゆける場所はきっとどこにでもある』そう思っていた。
反面、シンジにとっては人を探すのが義務のようになってきていた。
再び心の壁が人々を引き離した世界では、『いつか裏切られる日が来る』そう思ったのは確かだが、たとえそうであれ、このままでは不安なのだ。
他人の存在を望んだのが、たった二人では悲しすぎる。それならば母は、綾波や、渚カヲルはなんの為に、その存在を滅したのか?
『希望』とは何だったのか?
アスカがシンジの背中を突いてきた。波止場に車を止め、停泊する軍艦の列を眺めながら、シンジが思いに耽っていたからだ。
「なぁーに、浸ってんのシンジさん?」アスカが軽く聞く。
「んー。畑作ろうかなぁ〜と思って」なにげなしにシンジは答える。
「畑ぇ?」アスカが怪訝に聞き返す。
「最近野菜食べてないだろ?生野菜は育てないと食べれないからねぇ」
アスカは、シンジが先を見ていると思った。