第弐拾九話
『 黒い月 』
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シンジが調べた処によると、浄水場はシンジ達がいた海岸から見えた、山並みのさらに山岳部へ向かう方向にあるようだった。
水道が供給されているということは、機械は稼働している事を示すが、恐らく、至る所で主人が消失した事により、開いたままの蛇口が多数。
また、例の惨事の被害も無視できず、飲み水に不安もあるのだった。
しかし、確認に向かった二人は、道半ばで一部が崩落した橋に阻まれた。
「どぉーしょうもないわね…これは」アスカが拍子抜けした様に言う。
「他に道は無いのかな?」
「いくつか林道があったっぽいけど、どこに出るかわからないわよ。」
「んー」考え込むシンジ。
「下調べも無しに知らない山に入るなんて嫌よ」
ぶーたれるアスカに、「それもそーだね」とシンジは言った。
仕方無しに、車をもと来た方向に走らせ始めると、「さっきの展望所に寄りたい」とアスカが言った。山道を走ってくる途中に車を停められる見晴らしの良さそうな所があったのだ。
しばらく走ると、そこに車を停め景色を見渡す二人。
「おぉ〜!きっれぇ〜ぃ!」大げさに驚くアスカ。
見渡せる海こそ紅いが、空は蒼く、景色は美しい。
山肌をそよぐ風が、アスカの髪とスカートを揺らす。
「どっかに誰か人がいるのかしらねぇー?」柵に両手を付き、下界に見入るアスカ。
「きっといるさ…。日本だけじゃなく、きっと世界中にいるはずさ」
答えるシンジの手が、アスカの腰を背後から抱く。
少し、しんみりするアスカ。しかし、アスカをまさぐるシンジの手。
跳ねるアスカの片眉。
「ココ…お外なんですけど…」
「うん。外だね」シンジが普通にスリ寄りながら言う。
「アンタ、そんな水の事で悩んでるよーな、真剣な顔して、そんな事考えてたわけぇ?」
振り向いたが、後退りしようにもできないアスカ。
「違うよ…。アスカがこんなパンツはいてるからだよっ!」
ワンピースのスカートをめくるシンジ。
「あぁー!コラっ!」
アスカはスカートをかろうじて押さえるものの、黒いレースの紐パンツが丸出しになる。
「卑怯だよアスカ!これは反則だよっ!」半ば感涙するシンジ。
「ちょぉ〜っと待ちなさいシンジ!人に見られた…あっ!」
アスカに抱きつくシンジ。
「誰が見るの?」ぼそっとジト目で聞くシンジ。
一瞬、間が流れる。
「えぇーっと…。…お日様?」引きつり笑いの観念しそうなアスカ。
「却下です」作戦実行。
「アンタ人が変わりすぎだぁって…んっ」
無理矢理キスされたアスカは、少し抵抗する。が、やはり成り行きに流されてしまう。
来日早々、寝込みにキスされたそうだったらしい事を思い出すアスカ。
『実は案外、手が早いんじゃないのコイツ…?』
とは言え、アスカも何だかノッてきた。
『帰ってからの分に用意したんだけど…なぁ』
蝉の声が、あたりの音をかき消していた。